橋下徹弁護士にのせられて懲戒請求する前に
この案件について橋下徹弁護士に否定的な意見を書くと必ず「一審二審では主張してないのに突然差し戻し審になって言い出した」「死刑廃止論者が自分の主張をする場としている」と返ってくるが、果たしてそうなのだろうか。
そういう意見を言う人に言いたい。「あなた」は少なくとも既存のマスコミ報道以外にきちんと弁護人の意見を調べ、また被告人の主張を調べたことがあるのか、と。キチガイ弁護士の言うことなど取り合うほうがおかしいというのなら、すでに思考停止状態だと思われるので、ここから先は読まれないほうが賢明だろう。だが、懲戒請求を行った後で、仮に弁護士会に呼び出されたとする。その際、上記のような発言をしたところで、法的根拠を持たないからと判断される恐れはある。その結果提訴され最高裁判例に基づき懲戒請求権の濫用につき不法行為であるとされる可能性があることについては熟知しておくべきだろう。何より、煽った張本人の橋下弁護士は懲戒請求なんてリスキーなことに手を出してないのがその証左である。(忙しいからだってさ。お笑い種ですな)
旧一審二審において、こういう事実があったとしても、「あなた」はまだ懲戒請求を行うのだろうか。
・被告人は旧1・2審では、訴訟記録の差し入れもしてもらっていなかったので、記憶喚起も曖昧であり、検察官の主張に違和感を唱えても弁護人に「下手に争って死刑のリスクを高めるより、反省の情を示し無期懲役を確実にする方が得策」と示唆を受けたと述べている。
・家裁での調査記録に「戸別訪問は孤独感が背景」「予想外に部屋に入れられ不安が増大した」「被害者に実母を投影している」「退行した精神状態で進展している」「死者が生き返るとの原始的恐怖心に突き動かされている」「発達程度は4、5歳レベル」などと書かれている。
・また家裁記録には「劇画化して認識することで自己防御する」とある。そうすると「ドラえもんが」や「魔界転生」等も、そういう被告人の性癖が路程されただけとも言える。
・さらに1審の被告人質問では殺意を否認する供述をし、強姦の計画性は刑事や検事に押しつけられた、と否認している。
・なお被告人質問は1審で2回、2審で4回ほど行われているが、犯行態様について聞かれたのはわずか20〜30分間、全体の10分の1以下の時間に過ぎない。
・被害者の遺体の法医学鑑定も大きな争点。弥生さんについて「両手で体重をかけて締めた」とされているが、片手のみの跡が残っており、舌骨骨折もないから疑問を提起している。夕夏ちゃんについて「頭上から後頭部を下に叩きつけた」とされているが、頭蓋骨骨折も脳内出血も無いことから疑問を提起している。被告人は「弥生さんは片手で押さえた」「夕夏ちゃんを叩きつけたというのはない」と述べており、現供述の方が客観証拠と整合する。
・また本村さんを睨んだとされたが、被告人は斜視で(家裁記録にも「斜視であり、脳器質の異常が疑われる」とある)、目が視線とは別の方を向いている。つまり実際に目があったときには、どこかほかのところを見ているかのように見える。そのことも記者会見で説明している。
・また橋下弁護士は「弁護団は国民への説明責任を果たしてない」と主張するが、すでに5月に陳述し、マスコミにも配布した「更新意見書」*1に書かれている。以上の理由により、守秘義務違反も生じない。橋下弁護士も、大阪の集会でこれを読んで以降は、「弁護団の主張自体はもう批判しない。1・2審であれば自分も同じ主張をしたかもしれない」としている。
・弁護団の中には死刑廃止論者だけではなく、検察出身者も存置論者もいる。また弁護団が現在までの段階で本件において死刑廃止論を訴えたこともない。
司法について疑問を持つのももっともである。国民感情と判決その他の乖離が見えるという怒りも然りと思える部分もある。だが今回の件は、マスコミ報道に躍らせていると思える箇所がいくつもある。調べれば調べるほど得心できかねる現実にぶつかる。
ここで強調しておくが、私はどんな事情があろうとも、本件の被告人には同情しない。殺す側にどんな理由事情があろうとも、殺される側への弁解とはならないからだ。またこの弁護団の主張がすべて正しいとも思わない。ただ、だからといって、マスコミが偏向報道してよいという理由にはならない。まったく別物である。いろいろ問題が多いといわれている弁護団だが、一審二審において触れられなかった(それが被告人における内心の真実でしかないことは理解したうえであえて書くとするならば)「事実」を掘り起こそうとしていることは間違いない。そこには目を向ける必要があると私は思う。ましてや、懲戒請求という法的手段に出る前には。
怒りの矛先を被告人ではなくなぜか弁護団へ向け、業務負担を強いる前に、少し考えてみてはどうだろうか。憎むべきは罪で、弁護団ではない。そして「あなた」は、マスコミに提出された資料も読まず、その場その場にあわせた、大衆におもねる主張をする弁護士と、調書そのものから見直し、己の主張を遡って調べ耳を傾ける弁護士とどちらがよいと思われるのだろうか。
*1:近日中にweb上において公開予定との事