「靖国神社」のご神体は「日本刀」なのか

某所で討論していたのだが、興味深いネタだったので改めてこちらでとりあげてみる。というわけで、では以下の有村議員の主張を考えてみたい。(問題箇所を阿比留記者のブログより転載する。)

そしてこの「靖国」のパンフレットにも書かれていますけれども、「そして、知られざる事実がある。靖国神社のご神体は日本刀であり、平成8年から敗戦までの12年間、靖国神社の境内において靖国刀が鋳造されていた」というふうに書かれていますけども、これは事実誤謬でございます。しられざる事実があるといって、靖国神社のご神体は日本刀であるというふうに主張されていますが、この認識事態が誤謬なんです。事実誤認でございます。これは私自身が靖国神社の広報に問い合わせています。神社で大切にされていらっしゃる神剣、神の剣は、一般的に世に言う日本刀、片刃で、ワンエッジですね、片刃で反りのある日本刀とは形状も異なっておりまして、このご神体は日本刀ではありません。この誤謬を知られざる事実として、ドキュメンタリーとして豪語されること自体が大変に遺憾なことでございます。

http://abirur.iza.ne.jp/blog/entry/529555/

ちなみに映画本編ではどのようにいっているかというと「ひとふりの刀である」と表現している。靖国神社のご神体が御太刀であることは「正論」平成17年8月号で前宮司の湯澤氏が語っていたと記憶する。(今その正論が手元にないので誤謬があるかもしれない。調べ次第間違っていたら訂正します)「日本刀」という表記が間違いかというと、「大辞林」によれば

にほんとう[―たう] 0 【日本刀】

日本固有の製法による刀剣類の総称。砂鉄を、踏鞴(たたら)を用いて低火度で製錬して得る玉鋼(たまはがね)を原材料として鍛造する。古墳時代から日本人の手になる作刀があるが、普通日本刀として思い起こされる彎刀(わんとう)は、平安末期に基本的形態が完成した。鎌倉時代に技術的に最高水準に達し、室町時代以降需要の増大とともに質的低下をみた。さらに豊臣秀吉の刀狩りを境に質的にも形の上でも大きな変化があり、慶長(1596-1615)以前のものを古刀、以後のものを新刀と呼ぶ。また、その外装である拵(こしら)えは高度な機能美を要求され、鐔(つば)・目貫(めぬき)・笄(こうがい)などの金工品は常にその中心的制作対象とされた。にっぽんとう。

ということであり、有村議員のいうように「この誤謬を知られざる事実として、ドキュメンタリーとして豪語されること自体が大変に遺憾なことでございます。」とするのは疑問が残る。

だが映画本編でいう「刀」という表記はと、「大辞泉」でひいてみると

かた‐な【刀】

《「かた」は片、「な」は刃の古語》

1 武器として使った片刃の刃物。

2 江戸時代、武士が脇差(わきざし)とともに差した大刀。

3 太刀の小さいもの。

・ 「我は元より太刀も―も持たず」〈太平記・二〉

4 小さい刃物。きれもの。

・ 「紙をあまた押し重ねて、いと鈍き―して切るさまは」〈枕・二五九〉

とある。これは大辞林でひいても

かたな32 【刀】

〔補説〕 「かた」は片、「な」は刃の意
[1] 武器として用いる刃物。
(ア) (両刃(もろは)の「剣(つるぎ)」に対して)細長い片刃の刃物。

(イ) (短い「脇差(わきざし)」に対して)長い刃物。大刀(だいとう)。


[2] (長い「太刀(たち)」に対して)小形の護身用の刃物。腰刀(こしがたな)。短刀。

・ 我は元来、太刀も―も持たず〔出典: 太平記 2〕

[3] 小さい刃物。小刀(こがたな)。

となり、結局のところ「刀」は「片刃」を意味しているようだ。ご神体がどれだけの大きさかは知らないが必ずしも小さい太刀とするのもどうかと思うし、そうなると「ご神体が刀である」とするには躊躇せざるをえない。おそらく製作者サイドは刀も剣も同じものと捉えてあのようなキャプションにしたのだろうがそのあたりを厳密に考えれば「太刀」とすべきだったと思う。映画本編とパンフレット・HP等で表記がばらばらなのも、本編を補う意味で用いたのかもしれない。*1

そういわけで、確かに有村議員の言い分にも「一理」ある。だがあえていうが、それがなんだってんだ?それならば「刀」を「刃」ないし「太刀」へと変更するよう求めればいいだけだろうに、「ドキュメンタリーとしておかしい」などと映画そのものまで全否定するのはどうか。その一事をもって映画全体を否定するのはあまりにも牽強付会が過ぎるというものだ。これが“実は刀匠を名乗る人物は監督が仕込んだエキストラだった”などといった「ヤラセ」なら、ドキュメンタリーとしての根幹を成す確かに重大かつ甚大な問題だろうが、そういう問題でもないのだし、まあなんだ、有村議員におかれては是非製作会社や監督に「太刀に訂正しろ」という運動でも起こして欲しいものだ、などというとなぜか「肖像権」やらなんやら別の問題へ移ったりするから余計なことは言わないほうがいいかもしれない。

と、えらそうに書いたが、まだまだ勉強不足であることは自覚しているので、誤謬等がございましたらご指摘をお願いします。

*1:そもそも私が不思議なのはわざわざ有村議員が靖国神社の広報課にご神体についてたずねていること。正論ぐらい読め。まあ国会答弁に正論の情報なんか使えないというのならば、確かにその通りといわざるを得ないが。